歯磨きをしている最中に、自分の口の中に親知らずが生えていることに気づいた。親知らずは抜いたほうがいいという話を聞いたことがあるが、いったいどのタイミングで抜けばいいの? そんな疑問をお持ちの方も、いらっしゃるのではないでしょうか。
親知らずを抜くのであれば早い方がよいですが、中には抜く必要がないケースも存在します。今回は、親知らずを抜くベストなタイミング、親知らずを抜いたほうがいい人と抜かなくていい人を分ける9個のポイント、親知らずを抜く際の5つの流れについて解説します。
この記事の要約
・歯は年齢を重ねるごとに硬くなることに加えて、高齢になると薬を服用するケースが多くなるため、抜歯に伴うリスクが高まる。親知らずを抜歯するのであれば、20代が終わるまでに抜くことが望ましい
・早めに親知らずを抜くことを検討したほうがいいケースとしては、親知らずやその手前の歯が虫歯になっている、横向きに埋まっていて前方の歯に悪影響が出ている、食べ物が詰まりやすい、X線検査で袋のような影が見られるといった症状を持つ場合が挙げられる
・親知らずが上下ともに正常に生えている、歯茎の中に完全に埋まっている、矯正治療で正しい位置に動かせるといった条件を満たしている場合であれば、必ずしも親知らずを抜歯する必要はない
親知らずとは
親知らずとは、大人の奥歯にあたる「大臼歯」という部分の最も後ろの位置に、他の歯よりも遅れて生えてくる歯のことです。一般的には10代後半から20代前半の時期に生えてくることが大半となっており、「第三大臼歯」という正式名称や「智歯」という通称でも呼ばれます。
親知らずは他の歯よりも後になってから生えてくるため、正常な生え方をするために必要となるスペースが十分に確保されないケースがあります。その影響で、横向きもしくは斜めに生えてきたり、最後まで生えてこなかったり、半分埋まったままの状態になってしまう可能性があり、痛み、腫れ、お口の中の衛生状態の悪化などを引き起こす要因となります。
親知らずはいつ抜くのがベスト?
親知らずが横向きや斜めといった好ましくない生え方をしている場合は、遅くとも20代が終わるまでには抜歯することが望ましいと考えられています。歯は年齢を重ねるにつれて硬くなるため、抜くのに長い時間がかかるようになってしまうからです。
また、高齢になると糖尿病、骨粗しょう症、高血圧などの薬を服用するケースも多くなることから、抜歯に伴うリスクも増大する傾向にあります。その一方で、20歳前後の時期であれば、顎の関節が柔らかい状態にあり、治療の際に長時間にわたって口を開け続けることも苦になりづらく、免疫力も比較的高いことから、抜歯に伴う負担やリスクが小さくなります。
親知らずは抜いた方がいい人と抜かなくてもいい人に分かれる
親知らずが生えている人の中には、早急に抜いたほうがいいケースもあれば、抜歯する必要がないケースも存在します。この項目では、親知らずを抜いたほうがいい人に見られる4つのポイントと、親知らずを抜かなくてもいい人に見られる5つのポイントについて、それぞれ解説していきます。
親知らずを抜いた方がいい人
親知らずの存在によって、前方にある歯や周囲の歯肉に悪影響が及ぶことは少なくありません。そのため、以下の4つの条件に当てはまる人は、できる限り早く親知らずを抜くことを検討したほうがいいかもしれません。
親知らずや手前の歯が虫歯になっている人
親知らずは歯列の中で最も奥の部分に存在する歯であり、ブラッシングの際に汚れを落とすのが難しいだけでなく、治療器具を届けることも難しい位置にあります。また、たとえ虫歯の治療を行ったとしても、ブラッシングによるケアが難しい影響で汚れが溜まりやすくなっており、虫歯が再発してしまう可能性も比較的高くなります。
そのため、親知らずやその周囲の歯が虫歯になっている場合は、親知らずに対して虫歯治療を行うのではなく、親知らず自体を抜いてしまうことで、より効果的に歯列の衛生状態を改善させることができるケースは少なくありません。
横向きに埋まっていて前方の歯に悪影響が及んでいる人
親知らずが横向きに埋まっている場合、親知らずやその周囲の部分に炎症が起こる「智歯周囲炎」と呼ばれる症状が発生したり、親知らずの手前にある「第二大臼歯」の歯根が溶けて吸収される現象が引き起こされる可能性があります。これらの悪影響が周辺の歯に及んでいるケースでは、親知らずを抜くことによって根本的な対処を行うことが考慮されます。
ただし、第二大臼歯の吸収が進行しすぎている場合は、親知らずを抜いた後に奥歯の噛み合わせに問題が生じる可能性が生じます。そのため、親知らずを抜いた後でインプラントや入れ歯などを使用することによって、歯列が崩れる事態を防ぐことが必要になる場合もあります。
食べ物が詰まりやすい人
食事の際に食べ物がお口の中に詰まることが多い人の中には、親知らずが生えていることが原因となっているケースも存在します。親知らずの生え方が、歯茎から歯の一部が見えているような中途半端な状態になっている場合は、その周囲に食べ物が詰まりやすくなってしまうのです。
親知らずの周囲に食べ物が詰まってしまうと、周囲の歯肉が炎症を起こし、腫れや痛みの発生につながりやすくなる点にも注意が必要です。そうした事態を避けるため、親知らずの抜歯を行うことが求められる場合もあります。
X線検査で袋のような影が見られる人
X線検査を行った際に、親知らずの周囲に袋のような影が見られた人も警戒が必要です。そのような症状は「嚢胞」という病気であり、基本的に無症状のまま病状が進行していくため、一般的には良性の病変と認識されています。
ただし、嚢胞の中には化膿による感染の影響で痛みが生じたり、嚢胞が拡大することによって顎の骨に腫れが発生するケースも存在します。また、悪性の腫瘍を嚢胞と勘違いして放置すると命にかかわる危険性もあるため、場合によっては外科手術を行って嚢胞の一部を切除したり、親知らずと合わせて摘出が必要になることがあります。
親知らずを抜かなくてもいい人
親知らずが生えているからといって、必ずしも親知らずを抜かなければいけないというわけではありません。以下の5つの条件に該当する人であれば、親知らずを抜かないことによってプラスの効果がもたらされると考えられます。
上下できちんと生えていて噛み合っている人
親知らずが上下どちらの歯列でもきちんと生えており、噛み合わせにも問題がない場合は、無理に親知らずを抜歯する必要はありません。親知らずが綺麗に生えている状態であれば、問題になりやすいブラッシングの難易度も大きく緩和されるため、親知らずの汚れに起因するお口の中の衛生状態の悪化に関しても、大きな心配はいらない点もポイントになります。
完全に埋まっていて問題がない人
親知らずが完全に歯肉の中に埋まっていて、それによって問題が発生しているわけではない人の場合も、親知らずを抜く必要はありません。埋まった親知らずが痛みや腫れなどの症状を引き起こしている場合は対処を考える必要がありますが、特に目立った症状がないのであれば、埋まっている親知らずは特に害がないと考えられています。
入れ歯やブリッジの土台が必要な人
歯列矯正の一環として入れ歯やブリッジを利用する場合、治療箇所の両端にある歯を土台にする必要があります。ある程度正常な状態で生えてきた親知らずは、削ったうえで入れ歯やブリッジの土台として利用することができるため、親知らずを抜歯するのではなく、残したうえで有効活用したほうが、患者さんにとって有益な結果をもたらすこともあります。
親知らずを移植する必要がある人
親知らず以外の位置にある歯を抜歯する必要が生じた場合、その部分に親知らずを移植することによって、治療に伴うリスクを減少させることができるかもしれません。別の場所に移植できるか否かは、歯の大きさや形状、患者さん自身の状態によって変わってきますが、親知らずを利用することで治療の質を高めることが可能になるケースも存在するのです。
矯正治療で正しい位置に動かせる人
たとえ親知らずが良い形で生えてこなかったとしても、矯正治療を施すことによって、正常な位置に親知らずを動かすことが可能になる場合があります。安易に抜歯を選択するのではなく、矯正治療によって歯を抜かずに歯列全体のバランスを整えることができるかもしれないという点は、治療に際して頭に入れておくといいかもしれません。
親知らずを抜く流れ
親知らずを抜くためには外科手術が必要となることもあり、施術の前後にいくつかの手順を踏んでいくことになります。この項目では、親知らずを抜く際に行われる治療の流れについて、5つの段階に分けて紹介していきます。
①検査・診察を受ける
まず初めに、レントゲン撮影やCT撮影などを用いてお口の中の検査を行い、親知らずや神経が存在する位置と、歯根の状態を確認する必要があります。親知らずがお口の深部に存在したり、歯根が複数に分かれていたり、周囲の部分に腫れがあったりする場合は、抜歯の難易度が上がるため注意が必要になります。
②麻酔をする
検査の結果、親知らずを抜くことが可能であることが確認できたら、抜歯を行う前に麻酔を施していきます。先に歯茎に対して塗り薬を使用することで表面麻酔を行った後で、歯茎に麻酔の注射をしていきます。その後、麻酔がきちんと効いているかを確認するために、麻酔を施した部分の周囲に触れて反応を見ていきます。
③歯茎を切開する
麻酔が効いていることを確認し次第、歯茎を切開して親知らずを露出させます。親知らずが横向きや斜めに生えていたりするのであれば、歯を露出させることが抜歯への第一歩となります。また、もともと歯が見えているケースであっても、歯根を掘り起こすために歯茎の切開が行われる場合もあります。
④親知らずを抜く
歯茎を切開し終えたら、いよいよ親知らずを抜歯していきます。親知らずが真っすぐ生えているのであれば、器具を使って歯を掴み、抜けやすくなるように揺らしてから引き抜きます。歯が横向き、もしくは斜めに生えているケースでは、歯の頭の部分を削って分割したうえで取り除き、その後で歯の根っこの部分を抜いていくという手順を踏みます。
⑤縫合する
親知らずを抜いた後は、その部分に生じた穴に削りかすや汚れが残らないよう、専用の器具を使って清掃と洗浄を行います。穴の中が清潔な状態になったら、切開を行った部分の歯茎に対して糸を使って縫合し、1週間程度が経過した後で抜糸を行うことで施術が完了する流れとなります。
まとめ
親知らずを抜歯するのであれば、20代までに抜くことが望ましいと言われています。これには、年齢を重ねるにつれて歯が硬くなっていくというだけでなく、高齢になると薬を服用するケースが多くなることによって、抜歯に伴うリスクが増大する傾向にある点も関係しています。
ただし、親知らずがまっすぐ正常に生えていたり、歯肉に完全に埋まっている状態であれば、親知らずの存在に伴ったリスクが生じる可能性は低いため、全てのケースで抜歯が必要になるわけではありません。そのため、まずは歯科医院に足を運んで医師に相談し、自分が抜歯すべきかどうかを判断してもらうことをおすすめします。