気になっていた虫歯を治そうと歯科医院をいざ受診した際、歯科医師から「歯の根の治療が必要」と言われたことはありませんか。歯の根の治療とは何か、虫歯治療とは違うのか、治療内容にピンとこない方も多いでしょう。
この記事では、歯の根の治療の内容や治療後の痛み、治療期間・費用などを詳しく解説します。これから治療を開始する予定の方は、ぜひご参考になさってください。
この記事の要約
・歯の根の治療(根管治療(こんかんちりょう)は、主に虫歯菌によって汚染された歯髄を取り除き、根管をお薬で緊密に塞ぐ治療のことです。
・歯髄炎(しずいえん)や歯髄壊死、根尖性歯周炎の場合に、歯の根の治療が行われます。
・歯の根の治療を受けた後に数日、歯の痛みが続くことがあります。
・歯の根の治療は難易度が高く、治療に時間がかかります。早くて即日、症例によっては2〜3ヵ月かかることもあります。
・費用の目安は、保険診療であれば2,000〜3,000円、自由診療であれば70,000〜150,000円です。
歯の根の治療(根管治療)とは
歯の根の治療は、根管治療(こんかんちりょう)ともよばれ、歯の神経の通る根管の中を綺麗にします。
根管の中には神経や血管を含む歯髄という組織があります。歯髄が虫歯菌に感染すると何もしていないのに痛みが生じます。感染した歯髄の除去が必要です。また、根管内を徹底的に洗浄し、薬を緊密に詰めて塞いで再発を防ぎます。これが歯の根の治療です。
歯の根の治療によって、抜歯を回避して歯を残すことも可能です。
→歯の根の治療については、根管治療【こんかんちりょう】とはのページをご覧ください。
歯の根の治療が必要な状態とは?
歯や歯周組織が下記の状態の場合、歯の根の治療が必要です。
歯髄炎(しずいえん)
歯を削る刺激を受けたり、虫歯が歯髄に達し、炎症が起きている状態を歯髄炎といいます。歯髄炎になると、冷たい物や熱い物の刺激を受けやすくなるほか、何もしてなくても歯が痛むことがあります。歯髄炎になっても正常な状態に回復する場合がありますが、回復しない場合には歯の根の治療が必要です。
歯髄壊死(歯髄壊疽)
歯髄炎がさらに悪化すると、歯髄壊死(壊疽)を引き起こします。歯の神経が死んで痛みを感じなくなります。痛みがなくなって、治ったと勘違いする患者さんも多いです。また、神経が死ぬと歯の色が青黒くなるなどの変化がみられることがあります。
根尖性歯周炎(こんせんせいししゅうえん)
歯の根の先(外)にまで炎症が広がって痛みを感じる状態です。症状は、食べ物を噛んだときに痛みを感じたり、歯肉から膿が出たりします。根管治療をしても、根管内に残っていた細菌が再び悪さをして根尖性歯周炎になる場合があります。
歯の根の治療の流れ【4STEP】
一般的に、歯の根の治療は下記の流れで行われます。
①虫歯部分の除去
虫歯に感染している部分を徹底的に削ります。
②洗浄・消毒
根管内をファイルという先の尖った器具や次亜塩素酸などの薬品を使ってきれいに洗浄・消毒します。根管内に細菌などの汚染物質が多く残っていると再発リスクが高まるため、マイクロスコープなどを使うこともあります(主に自由診療での治療です)。
③根管充填
歯髄を取り除いた後、根管内は空洞のため、隙間が生じないように緊密にお薬を詰めます。
④補綴物(ほてつぶつ)の装着
歯の見た目と機能を回復するために、被せ物を装着し治療完了です。
歯の根の治療後の痛みはどのくらい?
歯の根の治療を受けた直後、数日は歯の痛みが続くことがあります。治療で歯の神経が刺激されて痛みが引き起こされている可能性が高いです。基本的に痛み止めが処方され、数日経てば痛みは治まっていきます。
歯の根の治療に必要な通院回数・期間
歯の根の治療は難易度が高く、再発させないために精密な治療が求められます。一般的な虫歯治療とは異なり、治療に慎重さ(時には多くの時間)を要します。
歯の根の治療のために、1本の歯で1−3回の通院が目安です。早くて1日、症例によっては2〜3ヵ月かかることもあります。また、1回あたりの治療時間も長いことがあります(1日で終わらせる場合など)。
歯の根の治療にかかる費用
歯の根の治療にかかる費用の目安は、保険診療であれば2,000〜3,000円程度、自由診療であれば70,000〜150,000円程度です。
自由診療の場合、マイクロスコープやラバーダムといった器具が用いられます。マイクロスコープを使うことで複雑な根管内を確認しやすくなり、精密に治療できます。また、ラバーダム(緑のゴム)によって歯を隔離することで、根管内に細菌が侵入するリスクを抑えられるメリットがあります。
保険診療の場合、このような器具を用いずに歯の根の治療を行うことが多いです。治療の成功率は自由診療よりも低い傾向にあります。
歯科医院によって、使用する器具は異なり、保険治療でもマイクロスコープを使うクリニックはあります。
2024年12月 株式会社メディカルネット調べ
歯の根の治療についてよくある質問
歯の根の治療で多くの患者さんが気になることを解説します。
根っこの治療をしないとどうなる?
歯の根の治療をせずに放置を続けた場合、歯の根の先へ細菌が侵入し、根っこの周囲の顎の骨を溶かします。これを根尖性歯周炎(こんせんせいししゅうえん)といいます。
さらに進行すると、顎の骨の中に膿が溜まって、にきび(嚢胞)ができる「歯根嚢胞(しこんのうほう)」を引き起こし症状が慢性化します。歯根嚢胞の治療には、摘出手術が必要です。
治療のときにピピピって音がするのはなぜ?
歯の根の治療では、根管長測定器(こんかんちょうそくていき)という器具が用いられます。これは、電流の変化から歯の根の長さを測定する器具です。器具を根管内に挿入し、一番深い部分に到達したときに「ピピピ」という電子音が鳴ります。
根管長測定器の使用によって、感染した歯髄などを取り除いて薬を詰めることが可能です。
まとめ
歯の根の治療とは、虫歯が歯髄や歯の根の先にまで到達し、歯髄を取り除いて根管内をきれいにしてお薬を詰める治療です。虫歯で歯髄炎や歯髄壊死、根尖性歯周炎になった場合、歯の根の治療が必要になります。治療後に数日、歯の痛みが出る場合があります。
歯の根の治療をせずに放置すると、症状が悪化するため、治療が全て終了するまで通院を続けましょう。
この記事で、歯の根の治療に関するあなたの疑問が少しでも解消されたら幸いです。
記事監修
歯科医師 古川雄亮 先生
国立大学歯学部卒業後、大学院において歯のエナメル質の形成に関わる遺伝子研究を行い、アジア諸国で口腔衛生に関連する国際歯科活動にも従事した。歯学博士修了後、南米の外来・訪問歯科診療に参加した。 2019年10月10日Nature系のジャーナルに研究論文「HIV感染患児における免疫細胞の数と口腔状態との関連性について」を公開