「幼稚園の子供に虫歯ができてしまったため、小児歯科に足を運ぶ必要が出てきた。でも、自分が幼い頃に歯医者で押さえつけられて治療された経験があるので、子供を連れて行くことを不安がある。」そんな悩みをお持ちの方はいませんか。
現在の小児歯科治療では、基本的に押さえつけて治療することはありません。子供が歯科に恐怖心を抱く理由は他にも存在します。今回、子供が歯科治療を怖がる4つの理由、小児歯科を苦手にさせない5つの方法、治療が難しい場合の3つの対処法について解説します。
この記事の要約
・馴染みのない環境で、直接見えない部分を治療されること等が原因で、子供が歯科治療への苦手意識を抱くことは少なくない
・嘘をついたり、不意打ちのようなかたちで歯医者に連れて行くのではなく、歯医者に行く理由を理解してもらい、ポジティブな感情を持ってもらうのが大事
・小児歯科での治療が難しい場合は、虫歯の進行止めを使用したり、笑気麻酔を使ったり、小児歯科専門医で治療を受けるという選択肢も存在する
小児歯科で押さえつけて治療することは基本的に無い
近年の小児歯科において、緊急性が無ければ、子供を押さえつけて強引に治療を行うことは少ないです。身体を押さえつけて治療したとしても、患者さんのお口は動いてしまいます。そのため、患者さんのお口の中を傷つけてしまったり、治療の精度が落ちてしまうというデメリットもあります。
それに加えて、子供を無理矢理押さえつけて治療すると、その経験がトラウマになり、歯医者に対して恐怖心や苦手意識を抱くことにもつながりかねません。大人になってからも歯医者に対する抵抗感を持ち続けてしまうと日常生活にも悪影響が生じかねないため、生涯にわたる歯の健康を考えたうえでも、強引な治療は控えています。
子供が小児歯科を怖がる原因
子供にとって、小児歯科に対して苦手意識を抱く4つの原因は、いずれも小児歯科は怖いというイメージを子供が抱くためです。
馴染みのない環境に戸惑うから
小児歯科専門でない歯医者は、家や幼稚園などに比べてアットホームな印象が少ないかもしれません。加えて、薬品の匂いや歯を削る音が子供に緊張感を与えます。治療に使うドリルや見慣れない診察台は、子供に恐怖感を与えかねません。
また、歯科のスタッフはマスクや白衣を着用します。こうした服装も子供が恐怖心を抱く原因です。
何をされるのかわからないから
子供にとって、歯医者で何をされるのかは実際に体験するまでわかりません。口の中にドリルを入れる経験は馴染みのないものです。多くの子供が施術前に大きな恐怖感を抱くでしょう。
加えて、歯科治療の様子は、患者さんの目で見ることができません。たとえ治療の際に痛みが発生しなかったとしても、痛いかもしれないと思いながら知らない器具を口の中に入れられて治療される経験は、子供が抵抗感を抱くのに十分な理由となります。
親が怖い場所だと伝えているから
普段の生活において、親が子供に対して「歯医者は怖いところである」という印象を抱かせているケースは少なくありません。「虫歯になったら歯医者に行かなきゃいけないよ」といったような表現を行っていると、実際に歯医者に行く前から抵抗感を抱くことにつながりかねません。
本来であれば、子供にとっては初めて歯医者に行く前の段階において、その場所を過剰に怖がる理由は少ないはずです。実際の治療前に悪印象を抱かれないためにも、日常生活における表現に気を配っておくことは重要になってきます。
嘔吐反射の経験があるから
人間は、喉元へ異物が侵入した際に吐き出そうとする「嘔吐反射」という機能を持っています。症状が強い患者さんの場合、口の中を触ろうとするだけで反射が起きて、吐き気を催してしまうことがあります。
また、歯医者に恐怖心を抱いている子供が治療の際に抵抗して泣き叫んだりした場合、治療に用いるバキュームが誤って喉の近くまで入り、嘔吐反射を引き起こすこともあります。
一度嘔吐反射を経験してしまうと、それ以降の治療においても再び吐いてしまうことへの恐怖感を抱いてしまい、歯科治療そのものに抵抗感を持つことにもつながります。
小児歯科を苦手にさせない方法
子供が歯科治療に前向きな感情を持てるか、それとも苦手意識を抱いてしまうかは、親の言動によっても大きく変わります。子供ができれば楽しく治療を受けられるようになるために、親が取ることができる主な方法は以下の5つです。
嘘をついて連れて行かない
子供を歯医者に連れていく際に、「痛くない」「何もしない」といった嘘をつく親は少なくありません。子供にとって「痛くない」と言われたにもかかわらず、治療で痛みを感じてしまった時点で「嘘をつかれた」と感じます。
その結果、「痛かった」という事実と「嘘をつかれた」というマイナスイメージが子供の心の中に強く残ってしまい、歯医者に対する苦手意識を持つことになりかねません。
歯医者について説明する際には、痛みの有無にあえて触れないことも選択肢の一つです。
親が歯医者に対してポジティブな話をする
親が歯医者に対して「痛い」「怖い」といったネガティブなイメージを発信するのではなく、「昔、自分も歯をきれいにしてもらった」といったポジティブな表現をすることによって、「歯医者は良い医療機関」であるプラスの感情を子供に持ってもらいやすくなります。
治療前に子供に不安を与えないためにも、親が率先してポジティブな姿勢を示したり、前向きな話をしてあげることによって、子供の先入観を取り除く手伝いをしてあげるのは非常に大事です。
子供が心の準備をする時間を設ける
歯医者に行くことをあらかじめ子供に伝えておくと、子供にとっては心の準備ができます。歯医者に行くことを伏せたまま子供を連れていった場合、歯医者に対する警戒心は高まり、苦手意識も増します。
子供に嘘をついたり、不意打ちのように歯医者に連れていくことは絶対に避けて、歯医者に行くことを率直に伝え、子供にポジティブな印象をできる限り持たせましょう。
治療後に褒める
歯医者で治療を受けるのは、子供にとって勇気がいることです。恐怖と戦い、我慢して治療を受けた子供を褒めてあげると歯医者に通うことに対して前向きになり、次回以降の治療にもポジティブに向き合えるようになります。
治療への子供のモチベーションを高め、「次も大丈夫」という自信を持つため、治療後に子供にねぎらいの言葉をかけ、頑張りを褒めてあげることは大切です。
なぜ歯医者に行くのかを理解させる
歯医者を怖がる子供の中には、歯医者に行くことで何を解決することができるのかを理解していない子も少なくありません。子供に歯医者に行く理由をあらかじめ伝え、歯医者に行かなかった場合どうなるのかを説明しましょう。
歯医者での治療を受ければメリットがあることを理解すれば、歯科治療に前向きな感情を持つ可能性が大いに出てきます。歯医者に行く理由を事前に理解してもらうことは、子供の感情を考えたうえでも意義のある行為になります。
小児歯科での治療が難しい場合の対処法
何らかの理由で小児歯科で治療を受けることが難しい場合でも、対応方法はあります。この項目では、通常の手段で歯科治療を受けることが難しい場合の対応方法を紹介します。
虫歯の進行止めを使用する
年齢が幼すぎるなどの理由で、小児歯科で虫歯治療を受けることが難しいケースにおいては、虫歯の進行止めを使うことがあります。進行止めによって虫歯を食い止めている間に、治療が可能になる段階まで子供の成長を待ち、その後本格的な歯科治療を始めることがあります。
虫歯の進行止めで歯の表面や歯肉が黒や褐色に変色するデメリットもあるため、虫歯の進行止めは基本的に永久歯に対しては使わず乳歯に行われます。
笑気麻酔を利用する
歯科治療への恐怖感や抵抗感が強く、治療中に抵抗する可能性がある子供には、麻酔を使用することで治療中に落ち着いてもらうことがあります。小児歯科において基本的に用いられる「笑気麻酔」で気持ちを落ち着かせます。
笑気麻酔によって、ドリルによって歯を削る際に生じる振動や音への恐怖や不安が小さくなり、気持ちを楽にして治療を受けることができます。また、歯科治療で使用される笑気麻酔の濃度は低いため、患者さんの意識は保たれたままであり、治療が終わった後はすぐに麻酔から回復できる安全性の高さも大きな特徴です。
小児歯科専門医を紹介する
一般的な歯科医院での治療が難しい場合は、小児歯科専門医への紹介もあります。小児歯科専門医は、他の医院では治療が難しい患者さんや、発達障害を抱える患者さんの治療を担当しているため、小児歯科に関する実績と知識が豊富に備わっており、一般の歯科では難しい治療を受けることが可能です。
しかし、小児歯科専門医の数は2020年の時点でおよそ1200名と少ないこともあり、治療を受けるためには長距離の通院が必要になったり、予約を取る難易度も高くなります。小児歯科専門医に通ってトレーニングを受けることによって、最終的にはかかりつけ医でも歯科治療を受けられるようにしていくという流れが一般的となっています。
参考:日本小児歯科学会
まとめ
現在の小児歯科においては、基本的に子供を押さえつけて治療することはありません。何らかの事情で治療が難しい場合であっても、笑気麻酔で落ちつかせる、虫歯の進行止めを利用して症状を食い止める、などで対処できます。
もし子供が歯医者を怖がっているのであれば、理由を知ることも重要です。そして、嘘をついたり、不意打ちに歯医者へ連れて行くのではなく、なぜ歯医者に行くのかを子供に理解してもらい、心の準備をしたうえで治療に臨めるように気を配ってあげることで、子供が前向きに歯科治療を受けられるようにしましょう。
記事監修
歯科医師 古川雄亮 先生
国立大学歯学部卒業後、大学院において歯のエナメル質の形成に関わる遺伝子研究を行い、アジア諸国で口腔衛生に関連する国際歯科活動にも従事した。歯学博士修了後、南米の外来・訪問歯科診療に参加した。 2019年10月10日Nature系のジャーナルに研究論文「[HIV感染患児における免疫細胞の数と口腔状態との関連性について」を公開